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この記事について
この記事は、「もしも、ヒカセンがハーデス討滅戦に破れたら」です。
ジェミさん主催のユーザーイベントである『エオルゼア同人倶楽部』に参加させもらうに当たって書いてみた、FF14の二次創作になります。
なお、内容には、漆黒のヴィランズのラストに該当するパッチ5.0範囲までのネタバレがありますので、ご注意ください。
登場人物
アゼム
光の戦士にして、いつのまにか、ついでに闇の戦士。
今回の本編中では、かなりおっちょこちょいなタイプ。
エメトセルク
アシエンにして、最古の魔導士ハーデス。
指ぱっちんと、去り際の手ひらひらがトレードマーク。
水晶公
クリスタリウムの主にして、光の戦士を第一世界に呼び寄せた張本人。
その正体には、何やら秘密があるようだが。
異世界の詩人
詩人の割に、単に異世界風の和服を着てるだけとかいう謎の立ち位置のオッサン。
一体どうやって歌うんだろうか。
クリスタリウム外周の隅にいる。
本編
1.
そこは、深海に再現された古代人のかつての都市の幻影であるアーモロートの奥。終末の日の試練を、暁のメンバーと乗り越えた闇の戦士のアゼムは、第1世界の光の戦士であったアルバートの力を借りて、エメトセルクの前に立っていた。
そこへ、突然現れた囚われの身であるはずの水晶公に、珍しく驚きを露わにするエメトセルク。
「あの檻を抜け出してきただと……。愚かな、死んででもおかしくなかったはずだ」
「逆だよ……。このままじゃ死にきれないから、這い出してきたんだ」
そう言いながら、水晶公は、杖を構えて叫ぶ。
「さあ……時空を超えて来たれ……。ひとたび我らに力を貸したまえ……。彼方の勇士、稀なるつわものたちよ……ッ」
その声に答えるかのように、現れた七本の光の柱は、アゼムを囲む光の円の上に突き立つ。そして、光の柱からは、7人の平行世界の光の戦士たちが現れた。
「おのれ……。どいつもこいつも、あきらめの悪い……」
苛立たしそうに叫ぶエメトセルク。それを正面に見据えたアゼムは、迷いを振り切るようにゆっくり口を開く。
「決着をつけよう、エトセルク」
「いいだろう……。そこまでして望むなら、最後の裁定だ。勝者の歴史が続き、負けた方は、反逆者として名を記される。この星の歴史における悪役がどちらか、決めようじゃないか」
そう言うと、エメトセルクは、オリジナルアシエンの証である赤の呪印を顔面に表出させる。
「我は真なる人にして、エメトセルクの座に就きし者……。己が名をハーデス。冥きに眠る同胞がため、世界を奪い返すものなり!」
アシエン・エメトセルク……改めハーデスは、そのまま力を開放すると、黒衣をまとった巨大な姿へと変じる。
「全力で来い……。私もまた在るべき姿で迎え撃ってやろう」
そして、闇の戦士対ハーデスの最後の戦いが始まる。
最古の魔道士の姿を取り戻したハーデスは、手にした異形の長大な杖を振りかぶる。
「邪魔だ。散れ。【シャドウスプレッド】」
いきなり湧き出した闇の波動は、ハーデスを中心に吹き荒れた。慌てて避けようとしたアゼム。
「あっ」
しかし、咄嗟に転んで、大波のように押し寄せる闇の波動に頭から突っ込んでしまう。
「英雄殿ーー」
漆黒の広場に、水晶公の悲痛な色を帯びた絶叫が響く。やがて、吹き荒れる闇の波動が収まると、そこには、誰の姿もなかった。闇の戦士アゼムは死んだ。続く攻撃で、残りの光の戦士達も軽く薙ぎ払うハーデス。
2.
「そんな、あなたがこんなところで負けるなんて」
静まり返った漆黒の広場に響く、水晶公の慟哭。しばしあって、軽くいらだったかのような調子の声が響く。
「……ふざけるな」
我に返った水晶公は、辺りを見回す。しかし、彼が見つけることが出来たのは、目の前に立ちはだかる巨大なハーデスだけである。
「納得がいくものかっ」
続く言葉に、ようやく水晶公は、それが芝居がかったハーデスから発せられている言葉であることを認識する。
一体、どういうことだろうか。
どうにも意図が分からなかった水晶公は、咄嗟に言葉を返すことが出来ない。
「第1世界に来てから、ここまで、私がどれだけの時間を付き合ったと思っているんだ。お前は、お前たちが私たちよりも強く、残るべき存在であると存在するのではなかったのか。それがこんなあっさり決着がつくなんて」
妙に饒舌なハーデスは、どうやらあっけなく死んだアゼムに対して、怒っているようだった。軽く困惑しながらも、水晶公は口を開く。
「意図が分からないのだが。英雄殿を自ら倒したのは、あなただろう」
「勝つにしろ負けるにしろ、私はこいつと、己のすべてをかけるような全力の戦いがしたかったのだ。それがこのザマとは」
ハーデスは、最古の魔導士と変じて巨大化した手を握りしめ、力任せに床を叩く。周囲には、もはや彼に相対する戦士は、一人も立っていなかった。
「いや、そんなことをわたしに言われても困る」
「……仕方がないな。裁定のやり直しと行こうではないか」
「あ、あなたは、さっきから何を言っているのだ」
さすがに叫ぶ水晶公。しかし、それには答えないまま、ハーデスは、かつて人の形を保っていた時のように、指をぱちんと打ち鳴らす。すると、水晶公は、一気に世界が歪むのを感じる。
3.
水晶公が再び意識を取り戻すと、そこは、再びアーモロートの奥だった。目の前には、闇の戦士であるアゼムが立つ。
英雄殿は、さっきハーデスに破れたはずでは。
意識の断絶前後の連続性がなく、水晶公は、自分がどういう状態なのか、とっさに把握をすることが出来ない。
「あれ、英雄殿……」
「……どうした、さっさと奥の手とやらを使え」
多少苛ついた様子のハーデスは、小声で水晶公に促す。どうやらさっきまでのことは、夢ではなかったらしい。覚悟を決めた水晶公は、再び叫ぶ。
「さあ、時空を超えて来たれ、彼方の勇士、希なるつわもの達よ」
再び現れた光の柱は、魔法陣となって平行世界の英雄たちを召喚する。そして、エメトセルクも、最古の魔道士であるハーデスの姿へと変じる。
「全力で来い……。私もまた在るべき姿で迎え撃ってやろう」
「いや、ちょっと、セリフを省略し過ぎでは」
思わず突っ込んでしまった水晶公のセリフを黙殺したハーデスは、巨大な異形の杖を振り上げる。そして、闇の戦士アゼム対ハーデスの二度目の戦いが始まってしまったのだった。
「邪魔だ。散れ。【シャドウスプレッド】」
いきなり湧き出した闇の波動が、ハーデスを中心に吹き荒れる。
「……あ」
ちょうど攻撃魔法を使おうと集中をしていたアゼムは、それをもろに食らってしまう。やがて、吹き荒れる闇の波動が収まると、そこには、誰の姿もなかった。闇の戦士アゼムは死んだ。面倒くさそうに、他の光の戦士を薙ぎ払うハーデス。
「……あいつって、こんなに弱かったか?」
ハーデスは、もはや困惑を隠さず水晶公に話しかける。
「あなたが強すぎるだけではなかろうか。さすがは最古の魔道士殿」
どうやら、1度、時間が戦闘開始前に戻されたらしい。残念なことに、結果は変わらなかったが。
そのことをようやく理解した水晶公は、皮肉を込めて返す。
「もっと強い、希なるつわものとやらは召喚できないのか。例えば、投石バカじゃなくて、もっとしっかり回復する白魔道士とかをだな。そうだ、IL(アイテムレベル)も高いやつが良い。IL500以上で募集をかけたらどうだ」
「いきなり、無茶を言わないで欲しい。これでも精いっぱいだ」
「……ひょっとして、大勢で戦うのが問題なんじゃないか。あいつは、逆に自分がどこにいるのか、解らなくなっているんだ」
「英雄殿に限ってそれはないだろう。もしかして、食事をしていないとかなら、ありうるかもしれないが」
そこでハーデスは、巨大な指をパチンと鳴らす。
「そうだ。冒険者の間で流行っているマクロとか言うのを用意してはどうだ。例えば私の最初の攻撃は、こうだっ」
手加減気味の【シャドウスプレッド】を発動させたハーデスは、律儀にも闇の波動が広がりきった状態で止める。
「この攻撃は、私を中心に放射線状に伸びる。つまり、波動と波動の間が安全地帯だ」
「なるほど。英雄殿には、このマクロに従って散開してもらえばいけそうだ」
「……よし、裁定の追試といこうではないか」
すると、ハーデスは、再び指をぱちんと打ち鳴らす。すると、水晶公は、一気に世界が歪むのを感じる。
4.
そこは、再びアーモロートの奥深く。目の前では、やはり先ほどのようにエメトセルクと相対するように立つ闇の戦士アゼム。
「……どうした、さっさと奥の手とやらを使え」
ここはアシエンの本拠地の奥深くだ。時間を戻すような離れ業も、ある程度は可能ということか。
そんなことを考えていた水晶公は、エメトセルクの呼びかけで我に返る。
「こ、この術は、結構疲れるもので、そうそう使えるわけでもないのだが」
実際妙な疲れを覚えつつも、水晶公は、ヒーラに投石バカが混ざらないように祈りながら叫ぶ。
「さあ……時空を超えて来たれ……。以下略……ッ」
「……別に最後まで唱えなくても、発動するのだな」
人のことを言えまいといった様子で突っ込んだエメトセルクは、軽く肩をすくめると最古の魔道士であるハーデスの姿へと変じる。
「全力で来い……。私もまた在るべき姿で迎え撃ってやろう」
といいつつも、巨大な異形の杖を構えたハーデスは、攻撃するそぶりを見せず、水晶公の方を見て軽く手を振り促す。
「あ、ああ、解っている」
なんだか、妙なことになったものだ。
そんな事を思いながら、水晶公は、戦闘姿勢を取っていたアゼムを呼ぶ。怪訝な顔をしながらも、アゼムは、ハーデスからかなり離れた位置に居た水晶公のところまで戻ってきた。
「英雄殿。ハーデスは、自分を中心として、攻撃範囲が対象者に向けて、放射状に伸びる攻撃をしてくるようだ」
「えっ、くわしいわねー」
アゼムは、時折ハーデスの様子を確認しながらも、水晶公に説明の続きを促す。
「ああ、えっと、その、事前にその星占いの魔法でね」
そんな便利なものはないが。
自分で突っ込みながらも、水晶公は、苦笑いで説明を続ける。
「なので、ハーデスの攻撃が見えたら。こんな感じの図の通りに、散会して回避したらよいのではないか」
「なるほどー。あたしは、H(ヒーラ)1かな」
アゼムは、水晶公が光で空間に描いたマクロの散開図を、覚えるかのように見つめて軽くうなる。
「それから、英雄殿。食事はとっただろうか。討滅戦の際の食事は、重要だと思うが」
「あー、忘れてた。ごめんごめん」
「仕方がないな」
そう言いながら、水晶公は、懐から黄色い液体の入った瓶を取り出す。
「これは、リトルレモンを絞って黄金蜂蜜を垂らしたレモネードというジュースだ。良かったら、決戦前に飲んで欲しい」
「おお、ありがとー」
そう言いながら、笑顔で受け取ったアゼムは、そのままレモネードなる飲み物を飲み始める。
「すっぱおいしい」
「……おい、そろそろ、準備は済んだか」
一人だけ放置されて若干寂しそうな風情の漂っていたハーデスは、異形の杖を弄びながら言った。
「行けますね、英雄殿」
「うん、任せてー」
そして、闇の戦士アゼム対ハーデスの三度目の戦いが始まってしまうのだった。
5.
「……なぜだっ!」
力任せに巨大な杖を地面に叩きつけるハーデス。アゼムは、最初の攻撃こそ切り抜けたものの、やっぱりあっさり死んでいた。
「そ、そうだな」
呟いた水晶公にも、とっさにかける言葉がなかった。しばらく沈黙が周囲を支配した末に、ハーデスは再び口を開く。
「おい、ちゃんと装備の修理は終わっていたんだろうな」
「いや、わたしに言われても困るのだが。わたしは、英雄殿の母上か。それより、わたしの見立てでは、全体的に開幕から本気を出しすぎなのではないか」
「仕方はない、まずは、【ラヴェナスアサルト】あたりで様子を見るか」
「【ラヴェナスアサルト】とは、どんな攻撃なのだろうか」
水晶公は、とりあえずメモを取り出しながら言う。
「MT(メインタンク)対象の円形範囲強攻撃だ。後衛のアゼムは、とりあえずぼさっと突っ立ってても死ぬことはない」
そう言うとハーデスは、【ラヴェナスアサルト】の魔法を使う。膨張した漆黒の破壊の力は、器用にも攻撃が炸裂した状態で止まる。
「それは良さそうだ。きっとこの辺から、英雄殿を温めていく感じで始めると良いのではないだろうか。そして、即死しないくらいまでに、火力を落とすというのはどうだろう」
「仕方がない。前半くらいは、肩慣らしで始めるとするか……」
6.
「……ちょっと待ってくれ」
オーバーアクション気味に話すアゼムを、異世界の詩人は遮って止める。そこは、第一世界で、よく晴れた日のクリスタリウムの外周の一角だった。
「ん?」
ノリノリで話していたアゼムは、不思議そうに首を傾げる。
「いくらなんでも、いろいろおかしくないでしょうかね」
「大体あってると思うけど。だいたい、あなたは、そのまま話すと超話盛るでしょ。極ティターニアのときのこととか、忘れてないんだから。6連の雷のルーンってなによー」
「そこは、君の体験談が、僕の創作意欲を掻き立てるような劇的なものだったのだから、しょうがないよ」
異世界の詩人は、弁解するように肩をすくめる。
「でもでも、これなら水晶公が大活躍よ。絶対にみんなも大喜びだって」
アゼムは、笑いながら、突き出したこぶしで親指を立てる。
「ま、まあ、確かに、こんなお母さんみたいな水晶公は、新しすぎて受けるかもしれないね」
「それにあたしは」
そこで言葉を切ったアゼムは、ちょっと真面目な顔になって続ける。
「これくらいのほうが、彼との約束通り、みんなに覚えておいてもらえると思うんだけど」
「……僕は、相手が相手だけに、あまり滅茶苦茶に語り継ぐと、蘇ってくるかもしれないと思うよ」
「そうかなぁ」
そう言いつつ、ふと空をあおいだアゼムは、クリスタリウムの外壁で照り返された光に思わず目を細める。
「……もちろん、覚えてるわよ。忘れるわけないでしょ」
あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
なんか近所の姫ちゃんが、極ハーデスに挑戦するためのドレ……騎士ちゃんを募集していたのですが、募集要項が「ギミック完璧な人」みたいな感じで、参加できなかったときに浮かんだお話でした。
なんかあれ、ハルウララさんを見ても長すぎてさっぱりですね。
また、今回は、ユーザーイベントである『エオルゼア同人倶楽部』にも参加させて頂き、ありがとうございました。
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